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札幌高等裁判所 昭和36年(く)7号 決定

少年 H(昭一七・一一・二六生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由は、抗告人提出の抗告申立書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

所論は、原審の少年に対する措置は著しく不当であると論難し、少年に対しては利用できる私的な社会資源があり、これにより矯正できうるから、国家施設への収容は妥当でないと強調する。しかし、一件記録により認められる原決定判示第一の非行の動機、態様、この種事犯の社会に及す影響、殊に昭和三五年三月一〇日、遵守事項を附して田苗調査官の試験観察に付し、阿部正道に補導委託した後の試験観察の経過、昭和三六年一月一日、右遵守事項に違反して無断で千歳市の実家に帰り、右非行当時の中心的存在であつた者と不良交友を続け、飲酒の結果、判示第二の非行を犯すに至つた不健全な生活態度、非行後の自己反省を欠き、贖罪感の存在を推測せしめることのできない少年の行動に鑑み、かつ、少年の家庭環境、高校生当時よりの再三の非行にも具体的な方途は何一つ実行できず、依然盲愛的傾向にある保護者の補導能力の劣弱さに思いを致すときは、少年に対しては合理的かつ綜合的な矯正教育を施して、反省の機会と場を与え、社会に対する適応性を体得せしめることを策するのは当然の措置といわなければならない。附添人主張の補導委託先阿部正道が、少年のため熱意をもつてその補導に尽し、真に得難い社会資源であることは、附添人主張のとおりであるが、それにも拘らず遵守事項を破つて繰返される少年の非行の態様に鑑み、且つ保護者の保護能力が敍上の如くである点を併せ考えるときは、もはやその能力の限界を超えているものと断定せざるを得ないものである。

原審は全く右と同一見解の下に、少年に対し、中等少年院送致の措置を執つたものであり、極めて妥当適正である。論旨は到底採用することができない。

なお職権をもつて一件記録を精査した結果に徴しても、原決定を取消さねばならない理由は一もこれを見出し難いので、本件抗告はその理由がない。

よつて少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条に従い、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 矢部孝 裁判官 中村義正 裁判官 安久津武人)

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